『赤のミスティンキル』
 魔法に関する歴史(抜粋)

 アズニール暦も一二〇〇年代を迎えようとしている今より、遡ること三千年近く昔。
 当時繁栄の極みにあったアル・フェイロス王国にて魔法の力が発見された。超常の力を覚醒させた者たちが現れたのだ。彼らが魔法使いの始祖となった。
 だが魔法は、この古代王国の瓦解とともに歴史の中に忘れ去られ、今は一部の術やまじないが細々と継承されるにとどまっていた。

一. [古代魔術の発掘、魔法学のはじまり] アズニール暦二〇〇年代
二. [魔導王国ラミシス] アズニール暦三〇〇年代
三. [魔導学の発展] アズニール暦三〇〇~四〇〇年代
四. [魔導の暴走] アズニール暦四二五年~四二八年
五. [レオズスの君臨、魔導の封印] アズニール暦四二八年~四三一年

[古代魔術の発掘、魔法学のはじまり]

アズニール暦二〇〇年代

 ――統一国家アズニール王朝の時代。
 古代史研究家ノスクウェン・ルビスは、エヴェルク大陸のアル・フェイロス遺跡での探索中に一冊の本を見いだす。これこそが、古代アル・フェイロス時代に記述された魔法書だった。
 ルビスは親友の術使いクェルターグ・ラミシスと共に魔法書の判読に没頭していき、失われた魔法の体系を復活させた。ここに魔法学が誕生し、大規模な研究が進められることになった。
 術の素養を持つ者達がルビスらのもとを訪れるようになり、やがてルビスの住むヘイルワッドの町は、魔法研究の中枢として大いに発展していくことになるのだ。

 魔法体系は、クェルターグの孫ジェネーア・ラミシスの代には完成の域に達し、さらなる魔法研究が深耕化されていくが、ジェネーアはその過程で錯乱状態に陥り、自ら発動した魔術によっていずこかに行方をくらました。

[魔導王国ラミシス]

アズニール暦三〇〇年代

 ジェネーア・ラミシスは失踪後、魔法の禁断の領域である不死を追求しはじめた。
 ジェネーアのもとに集った魔法使いのうち、最も才覚を現した者こそがスガルトであった。不死の研究の過程において、ジェネーアは自らの体を滅ぼし、魂をスガルトに宿らせたという。
 スガルトは“漆黒の導師”を名乗り、ユードフェンリル大陸南部の島に、ラミシス王国を興した。この魔導王国の目的は不死性を求めること。魔法という大いなる力を究極まで肥大化させることによって神々の領域に近づくことをその目的としていたのだ。

 ついにラミシス打倒の勢力が決起した。その筆頭は魔導師シング・ディール。彼はスガルトの血族であるが、漆黒の魔導師の狂気から逃れるために離縁していた。ディールはアズニール諸卿より助力を受け、軍勢を引き連れてラミシスに攻め入る。
 しかし、大陸とラミシスを隔てるスフフォイル海を渡る際、強力な魔力障壁に阻まれて戦力は壊滅、ディールは敗走することになる。

 ディールを助けたのは龍《ドゥール・サウベレーン》のヒュールリットだった。  龍達はディールと共に行動を起こした。ディールとその軍勢は龍に乗り、ラミシスの魔法障壁を打破してついに魔導王国へと至った。  魔法を極めた王スガルトも、龍と魔導師の力には敵わず、ディールの鍛えた剣、漆黒の雄飛“レヒン・ティルル”によって葬り去られた。  王を失ったラミシスは浮き足立ち、アズニール軍と龍達によってあっけなく滅び去った。

↑ PAGE TOP

[魔導学の発展]

アズニール暦三〇〇~四〇〇年代

 漆黒の導師スガルトが遺した魔導の資料は膨大であり、また魔法の研究を大きく前進させるものであった。
 シング・ディールら魔法使い達によって、とうとう魔法体系の頂点である魔導が確立した。
 それまでの魔法は、あくまで術者本人の魔力のみを魔法の触媒としていたのだが、魔導は世界に存在する魔力を抽出し、発動させるのだ。しかしその高度な発動原理ゆえ、世界の理《ことわり》を把握していない者には行使不能である。

 三〇〇年代も終わりに近づく頃になると、魔導の向かうべき究極の姿が明らかにされる。このアリューザ・ガルドに存在するすべての色を交わらせた究極の色、“光”を生み出すことこそが魔法の究極なのだ。
 また、世界の魔力を増強するため、アリューザ・ガルドの四ヶ所に魔導塔が建造された。

 アズニール暦400年代は、魔導の研究の最盛期である。この時代には多くの有能な魔導師達が世に出たが、その中にユクツェルノイレ・セーマ・デイムヴィンとウェインディル・ハシュオンの名がある。
 彼らはのちに、レオズス支配を阻んだ者として広く知られるようになるのだ。

[魔導の暴走]

アズニール暦四二五年~四二八年

 光という究極を追い求める魔導師達は、いつしか魔導の本質を見失ってしまっていた。結果として、人の手に余る力はついに氾濫してしまった。
 アズニール暦四二五年。四つの魔導塔からは極限まで高められた魔力が放出され、魔導師達にすらくい止めることが叶わなかった。この悲劇こそが“魔導の暴走”である。かたち無き力は世界中に波及し、各地に壊滅的打撃をもたらしてしまった。ユクツェルノイレやウェインディルを筆頭とした魔導師達が対策を講じるも、解決策は見いだせなかった。

 しかし四二八年、この魔導の暴走は突如収まった。事態を重くみたディトゥア神族のレオズスが四つの魔導塔に入り、原始の色を消し去っていたのだ。
 だが人間達の喜びもつかの間であった。
 レオズスは“混沌”の欠片をアリューザガルドに呼び寄せていたのだ。さしもの彼をもってしても魔導の強大な力をくい止めることは出来なかったため、彼は苦肉の策として、“混沌”の力を借りることで暴走を抑えたのだ。
 しかしながらレオズスは“混沌”に魅入られてしまい、この太古の力の手先となってしまった。そして宵闇の公子は、アズニール王朝ひいては人間に対して隷従を強いたのである。

↑ PAGE TOP

[レオズスの君臨、魔導の封印]

アズニール暦四二八年~四三一年

 宵闇の公子は、北方エルディンレキ島の魔導塔を自らの居城とした。人間にとって、かつての冥王君臨にも似た暗黒の時代が訪れることとなるのだ。
 レオズスに刃向かう者に対しては“混沌”の力をけしかけ、存在そのものを抹消してしまった。また、レオズスはエルディンレキ島周辺に“混沌”による結界を作りあげ、例えディトゥア神族であってもこれを越えることは叶わなかった。

 しかし、このレオズスの君臨を阻んだのは三人の人間であった。
 四三一年、ウェインディルは預幻師クシュンラーナ・クイル・アムオレイ、デルネアととも島に乗り込み、その結界を、この世ならざる剣“名も無き剣”をもって打破した。そして居城に乗り込み、壮絶な戦いの果てに宵闇の公子をうち破ったのである。
 深く傷ついたレオズスは、イシールキアをはじめとしたディトゥア神族によって裁かれた。レオズスは神族より追放され、以来その姿を見ることはなくなった。

 “魔導の暴走”の収束を経て、魔導の知識は封印されることになり、魔導の行使は不可能となった。また、魔導の塔に残存していた魔力の源は、魔導師達によって厳重に封じ込まれた後、アリューザ・ガルドから離れた次元へと持ち去られたという。

アリューザ・ガルド世界そのものの歴史については『悠久たる時を往く』に詳しい。

↑ PAGE TOP

扉頁に戻る

↑ PAGE TOP